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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)104号 判決

控訴人

宮田金重

右訴訟代理人

太田実

被控訴人

松永章憲

右訴訟代理人

吉野森三

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人は被控訴人が原判決末尾添付物件目録記載の土地の売買に関して控訴人に交付した同土地の登記済証、被控訴人名義の委任状及び印鑑証明書の返還を受けるのと引きかえに控訴人に対し金二〇〇万円を支払え。

控訴人のその余の予備的請求を棄却する。

控訴費用はこれを二分し、その一を控訴人のその余を被控訴人の各負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人が昭和四八年四月二二日被控訴人からその所有にかかる本件土地を代金二〇〇万円で買い受けたことは、当事者間に争いがなく、控訴人が同日被控訴人に対して右代金二〇〇万円を支払つたことは、被控訴人の明らかに争わないところである。

二当裁判所は、当審での新たな証拠調の結果を斟酌し、さらに審究した結果、本件土地の前記売買は控訴人の詐欺に因るものであり、被控訴人が昭和五〇年三月三一日の原審口頭弁論期日において本件土地売買契約を取り消す旨の意思表示をしたことにより、該契約は有効に取り消されたものと判断する。その理由は、左記のほか、原判決の理由説示(原判決四枚目裏七行目から八枚目表一〇行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

(一)  当審証人〈省略〉の証言は、前記引用にかかる原判決の認定を補強するものであり、当審での〈証拠〉中右認定に反する部分は、〈証拠〉に照らしてたやすくこれを措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  控訴人は、被控訴人のした前記売買契約の取消しは、契約当事者双方の合意によるものではないから無効であると主張するけれども、欺罔にかかる瑕疵ある意思表示は、表意者において一方的にこれを取り消し得るのであるから、控訴人の右主張は、採用のかぎりでない。

三そうすると前記売買契約の取消しにより、当該契約は当初から無効となり、当事者は、原状回復義務を負うに至る。ところで、被控訴人に対しその受領にかかる前記代金二〇〇万円の返還義務を負うことは多言を要しないものというべきである。一方、被控訴人が昭和四八年四月二二日本件土地売買契約による所有権移転登記手続の履行のため控訴人に対して本件土地の登記済証、被控訴人の委任状及び印鑑証明書を交付したことは、当事者間において争いがなく、右登記済証等は、本件売買契約による被控訴人の所有権移転登記手続履践のため登記手続上必要な書類として控訴人に交付されたものであるから、本件売買契約が無効に帰した以上、控訴人はこれらを被控訴人に返還すべきものであり、しかも、売買契約においては、格別の事情のないかぎり売買代金の支払いと所有権移転登記手続の履践とは同時履行の関係に立つと解すべきであり、前記書類がいずれも当該登記手続に通常必要な書類であることを考慮するときは、被控訴人の売買代金返還義務と控訴人の登記手続書類返還の義務とは同時履行の関係に立つものというべく、従つてまた、被控訴人は、控訴人から前記登記手続書類の返還を受けるまで売買代金の返還について遅延の責を負ういわれはないといわねばならない。それ故、被控訴人の同時履行の坑弁は理由があるから、控訴人の予備的請求は、前記登記手続書類の返還と引きかえにのみこれを認容し、その余の部分は失当として棄却を免がれない。

四よつて、本件土地売買契約の有効な存続を前提とする控訴人の第一次的請求は理由がなく、以上と同旨で該請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴人の予備的請求は、控訴人において被控訴人から交付を受けた前記書類を被控訴人に返還するのと引きかえにこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九二条、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 古川純一 岩佐善巳)

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